本の紹介:マイケル・サンデル著「実力も運のうち 能力主義は正義か?」
マイケル・サンデル著「実力も運のうち 能力主義は正義か?」
本書が指摘している能力主義から発生した学歴による社会的な分断を私が最初に意識したのは、ブレグジットについての英国内の対立と2016年のアメリカの大統領選でのトランプ支持者対クリントン支持者の対立の構図です。
どちらも高学歴のエリートとそうでない一般的な労働者の人々の対立とメディアで伝えられていました。 高学歴のエリートの大半はブレグジットに反対し、そうでない人はブレグジットに賛成している。
そして、2016年のアメリカの大統領選では高学歴のエリートの大半はクリントンを支持し、そうでない人はトランプを支持しているという対立の構図です。
こういった対立構造が生まれた背景が本書でよくわかりました。
能力主義的な考え方をもとにして、高等教育を受けたかどうかによる選別が生まれ、階層社会となっていき、社会的な分断を作ってしまう。そして、高等教育を受けたエリートが受けなかった人たちをさげすむことが日常化していて、その結果、労働の価値が認められてこなかった中年の白人の労働者の「絶望死」による死亡率が近年極めて高いという統計データまであり、この分断は本当に深刻な問題だというのがわかりました。
本来は民主主義を推し進めるはずの教育が社会の中に分断を生み、民主主義の根底を破壊しかねないという矛盾が現代の社会の中で起きていることは衝撃的です。
教育自体は悪いものではないし、受けた教育は正しく活用すべきです。高等教育を「選別装置」として使うことが間違いの始まりで、国の中に発生した分断からは、国を揺るがすほど問題が発生してしまいます。
能力主義は良い面と同じくらい、陰の部分も生み出してしまうのです。
能力主義の中での成功は、本書が示すように運が良かっただけという面が多分にあるのであり、自分以外の社会を支える人への敬意をわすれてはいけないところです。
今の分断は、簡単に解決できるものではないでしょうが、社会全体にとっての共通善を実現するためには、共同体感覚が前提になければ、社会はまとまりません。民主主義の土台は、共同体といえる社会があってこそです。能力主義を生み出す「自由の理念」と民主主義は本来、相いれませんが、そこを乗り越えるためにも、著者が主張する多様な職業と地位の人が同じ空間で出会える機会ができるかどうかが、何かの変化を起こせる鍵かもしれません。
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